第1問(民法)
問: 抵当不動産の賃料債権について抵当権者が物上代位権を行使しようとする場合において、当該賃料債権が第三者に譲渡され、その対抗要件が備えられた後は、抵当権者は自ら当該賃料債権を差し押さえて物上代位権を行使することはできない。
答: ×
解説: 抵当権者は、抵当不動産の賃料債権に対して物上代位権を行使することができる(民法372条・304条1項)。問題となるのは、物上代位の目的債権が第三者に譲渡され、対抗要件(民法467条)が備えられた後でも、なお抵当権者が物上代位できるかである。
判例(最判平成10年1月30日民集52巻1号1頁)は、目的債権が譲渡され第三者に対する対抗要件が備えられた後であっても、抵当権者は自ら目的債権を差し押さえて物上代位権を行使することができるとした。
理由は、民法372条が準用する304条1項ただし書が、物上代位の行使要件として目的物の「払渡し又は引渡し」の前の差押えを要求しているところ、この「払渡し又は引渡し」に債権譲渡は含まれないと解されるからである。抵当権の効力は登記により公示されており、債権の譲受人は抵当権の存在を予期できる立場にあるため、債権譲渡によって抵当権者の物上代位が妨げられるとするのは相当でない、という価値判断が背景にある。
中級者として押さえておきたい関連論点として、物上代位と一般債権者の差押えが競合した場合は、抵当権設定登記と一般債権者の差押命令の第三債務者への送達の先後で優劣が決まる(最判平成10年3月26日民集52巻2号483頁)。「払渡し又は引渡し」の解釈は対象となる事象ごとに検討を要する点に注意したい。
第2問(不動産登記法)
問: 所有権移転請求権の保全の仮登記に基づいて所有権移転の本登記を申請する場合において、当該仮登記の後に登記された抵当権の登記名義人があるときは、その者の承諾を証する情報又はその者に対抗することができる裁判があったことを証する情報を提供しなければならない。
答: ○
解説: 不動産登記法109条1項は、「所有権に関する仮登記に基づく本登記は、登記上の利害関係を有する第三者がある場合には、当該第三者の承諾があるときに限り、申請することができる」と定める。
仮登記に基づく本登記がされると、その本登記の順位は仮登記の順位による(不動産登記法106条)。そのため、仮登記後・本登記前にされた中間処分の登記(本問の抵当権の登記など)は、本登記によって順位を失い、登記官の職権により抹消される(不動産登記法109条2項)。本問の仮登記後の抵当権登記名義人は、まさにこの「登記上の利害関係を有する第三者」に当たるため、その承諾を証する情報等の提供が必要となる。
中級者として押さえておきたい対比は、「所有権に関する」仮登記という条文の限定である。所有権以外の権利(抵当権、地上権等)に関する仮登記に基づく本登記については、109条1項のような第三者の承諾を要求する規定は置かれていない。これは、所有権以外の権利の本登記がされても中間の登記が当然に職権抹消されるわけではなく、順位の問題として処理されるためである。
「所有権に関する仮登記の本登記=利害関係人の承諾が必要・中間処分は職権抹消」「所有権以外の仮登記の本登記=承諾不要」という違いを、条文の文言(「所有権に関する」)と結びつけて理解しておきたい。
第3問(会社法・商業登記法)
問: 公開会社でない株式会社(種類株式発行会社ではないものとする)は、株主総会の特別決議によっても、募集株式の募集事項の決定を取締役会に委任することはできない。
答: ×
解説: 募集株式の発行等における募集事項の決定は、株主総会の特別決議によるのが原則である(会社法199条2項、309条2項5号)。
もっとも、会社法200条1項は、公開会社でない株式会社についても、株主総会の特別決議によって、募集事項の決定を取締役(取締役会設置会社にあっては取締役会)に委任することができると定めている。したがって、「特別決議によっても委任することはできない」とする本問は誤りである。
ただし、この委任には期間の限定がある。委任に基づいて募集できるのは、払込期日(払込期間を定めた場合はその末日)が当該委任決議の日から1年以内の日であるものに限られる(会社法200条3項)。
中級者として整理しておきたいのは、公開会社の場合との違いである。公開会社では、原則として募集事項の決定は取締役会の決議による(会社法201条1項・199条2項)。これは公開会社では機動的な資金調達の要請が強いためである。一方、非公開会社では既存株主の持株比率維持の利益が重視されるため、株主総会の特別決議が原則とされ、取締役会への委任も「株主総会の特別決議+1年以内」という枠の中でのみ認められる。なお、いわゆる有利発行に該当する場合は、公開会社・非公開会社を問わず株主総会の特別決議(取締役による必要性の説明を含む)が必要となる(会社法199条2項・3項、201条1項括弧書き)。
第4問(民事執行法)
問: 確定判決を債務名義とする強制執行に対して債務者が請求異議の訴えを提起する場合、債務者が事実審の口頭弁論終結前に弁済をしていたにもかかわらずその主張をしていなかったときは、その弁済の事実を請求異議の事由として主張することができる。
答: ×
解説: 請求異議の訴え(民事執行法35条)は、債務名義に係る請求権の存在又は内容について異議のある債務者が、その債務名義による強制執行の不許を求めて提起する訴えである。
確定判決を債務名義とする場合、異議の事由は「口頭弁論の終結後に生じたもの」に限られる(民事執行法35条2項)。これは確定判決の既判力の基準時(標準時)が事実審の口頭弁論終結時であり、それ以前に存在した事由は既判力によって遮断されるためである。
本問では、弁済の事実は口頭弁論終結「前」に生じている。債務者が実際にその主張をしていたか否かにかかわらず、口頭弁論終結前に存在した事由である以上、既判力によって遮断され、請求異議の事由とすることはできない。「主張できたのに、し忘れた」場合も遮断される点が、まさに既判力の遮断効(失権効)の核心である。
中級者として押さえておきたい対比は、執行証書(民事執行法22条5号の公正証書)を債務名義とする場合である。執行証書には確定判決のような既判力がないため、35条2項の時的制限は適用されない。したがって、執行証書の作成前に生じた事由(作成前の弁済等)であっても請求異議の事由とすることができる。「確定判決=口頭弁論終結後の事由に限る/執行証書=作成前の事由も主張できる」という違いを、既判力の有無と結びつけて理解しておきたい。
第5問(民法)
問: 連帯債務者の一人に対して債権者が裁判外で履行の請求をした場合、その効力は他の連帯債務者にも及び、他の連帯債務者についても時効の完成猶予の効力が生じる。
答: ×
解説: 平成29年の民法改正(令和2年4月1日施行)前の旧民法434条は、連帯債務者の一人に対する履行の請求に絶対的効力を認めていた。しかし、改正民法はこの規定を削除し、履行の請求は相対的効力事由となった(民法441条本文)。
したがって、現行法のもとでは、連帯債務者の一人に履行の請求をしても、その効力は他の連帯債務者には及ばず、他の連帯債務者について時効の完成猶予の効力は生じない。本問は誤りである(なお、本問のような裁判外の請求は催告として時効の完成猶予の問題となり得るが、その効力も請求を受けた連帯債務者についてのみ生じる)。
ただし、債権者及び他の連帯債務者の一人が別段の意思を表示したときは、その意思表示に従った効力が認められる(民法441条ただし書)。
中級者として整理しておきたいのは、改正後に絶対的効力が認められる事由の範囲である。すなわち、
- 弁済等の債務を消滅させる行為(連帯債務の性質上当然)
- 更改(民法438条)
- 相殺(民法439条1項。なお同条2項は、相殺を援用しない連帯債務者は、相殺権を有する連帯債務者の負担部分の限度で履行を拒むことができるとする)
- 混同(民法440条)
これら以外の事由(履行の請求、免除、時効の完成など)は、改正により原則として相対的効力にとどまることになった。旧法下の知識のままだと誤りやすい、改正の核心部分である。
出題分野の振り分け
| 問 | 科目 | 中心論点 | 主な根拠条文・判例 |
|---|---|---|---|
| 第1問 | 民法 | 抵当権の物上代位と目的債権の譲渡 | 民法372条・304条1項、最判平10.1.30民集52巻1号1頁 |
| 第2問 | 不動産登記法 | 所有権に関する仮登記に基づく本登記と利害関係人の承諾 | 不動産登記法109条1項・2項、106条 |
| 第3問 | 会社法・商業登記法 | 非公開会社における募集事項の決定の取締役会への委任 | 会社法199条2項・200条1項・3項、309条2項5号 |
| 第4問 | 民事執行法 | 請求異議の訴えにおける異議事由の時的限界 | 民事執行法35条2項 |
| 第5問 | 民法 | 連帯債務における絶対的効力事由(履行の請求の相対効化) | 民法441条、438条・439条・440条 |