第1問(民法)

問: 賃借人が賃貸人の承諾を得ずに賃借物を第三者に転貸した場合、賃貸人は民法612条2項により当然に賃貸借契約を解除することができる。

答: ×

解説: 民法612条1項は、賃借権の譲渡・転貸について賃貸人の承諾を要する旨を定め、同条2項は無断譲渡・無断転貸があったときの賃貸人の解除権を定めている。もっとも、判例(最判昭和28年9月25日民集7巻9号979頁)は、賃借人の無断譲渡・無断転貸であっても、賃貸人に対する背信的行為と認めるに足らない特段の事情があるときは、解除権は発生しないと解しており、いわゆる「信頼関係破壊の法理」が判例上確立している。

中級論点として押さえておきたいのは、転貸該当性そのものの判断である。たとえば、賃借人と同居する親族(内縁の配偶者・子)に賃借物を使用させる行為が「転貸」に該当するかは、賃借人の使用・収益の延長と評価できるか、独立した使用主体への賃借物の引渡しと評価できるかで個別判断される。判例も、賃借人の家族による使用は通常は転貸に該当しないと解する一方で、賃借人と生計を異にする者への使用許諾は転貸に当たり得るとしている。

なお、共同相続された借家権について、相続人の一人が単独で使用する場合の他の共同相続人に対する関係は、賃借権の準共有と構成され、賃借物の使用に対する対価としての不当利得返還義務を負うかは、当事者間の合意・実態によって個別判断される(最判平成8年12月17日民集50巻10号2778頁参照)。

第2問(不動産登記法)

問: 相続人申告登記を申請した相続人は、その後、遺産分割協議によって当該不動産の所有権を取得した場合であっても、改めて相続を原因とする所有権移転登記を申請する義務を負わない。

答: ×

解説: 不動産登記法76条の3(相続人申告登記)は、令和6年4月1日施行の相続登記義務化(不動産登記法76条の2)に対応する簡易申出制度である。

相続人申告登記の制度趣旨は、被相続人が亡くなって相続が発生したことを単独で申告することで、不動産登記法76条の2第1項の3年内申請義務をいったん履行したものとみなす(同法76条の3第2項)ことにある。ただし、これはあくまで「申告」段階の制度であり、登記事項として記録されるのは申告者の氏名・住所等であって、持分は記録されない

そして、不動産登記法76条の3第4項は、相続人申告登記を申請した者が、その後の遺産分割によって当該不動産の所有権を取得したときは、当該遺産分割の日から3年以内に、所有権の移転の登記を申請しなければならないと定めている。

すなわち、相続人申告登記は「相続発生の事実を申告し、義務をひとまず履行したと扱う」効果を持つにとどまり、最終的な権利関係の登記(所有権移転登記)は別途必要である。本問の記述は不動産登記法76条の3第4項に反する。

実務上は、相続人申告登記をしただけで「登記義務を完全に履行した」と誤解されやすい点に注意が必要であり、特に遺産分割が成立した場合の3年内移転登記申請義務を見落とすと、再度過料(同法164条1項)のリスクが生じる。

第3問(会社法・商業登記法)

問: 株式会社の株主総会の決議を要する登記事項について登記申請をする場合、株主リスト(議決権数上位10名分等を記載した書面)の添付が必要となるが、これは会社法上の要請ではなく商業登記規則上の要請である。

答:

解説: 株主リストの添付義務は、商業登記規則61条2項・3項により定められている(平成28年10月1日施行)。会社法本体の規定ではなく、商業登記規則の規定である点は中級者には押さえておきたい。

商業登記規則61条3項によれば、添付すべき株主リストは、議決権数上位10名分または議決権割合の合計が3分の2に達するまでの株主分のいずれか少ない方を記載すれば足りる。ここに記載する事項は、株主の氏名・住所、株式数、議決権数、議決権数割合である。

株主リストの添付が必要となる典型例は、

  • 取締役・監査役・会計参与等の役員選任登記
  • 定款変更を要する登記事項(商号変更、目的変更、本店所在地変更等で定款定めに抵触するもの)
  • 募集株式の発行のうち株主総会決議が必要なもの

など、株主総会決議が登記原因となるケースである。

なお、種類株主総会の決議を要する登記の場合は、当該種類の株主についての株主リストが必要となる(商業登記規則61条2項括弧書き参照)。実務上、株主リストに記載する「議決権数」は、自己株式や相互保有株式など議決権を行使できない株式(会社法308条1項括弧書き、同条2項)を除いた数で算定する点も問われやすい。

虚偽の株主リストを提出して登記を申請した場合は、商業登記法・刑法上の責任に加え、登記後の取消請求等の問題にも発展し得るため、株主名簿の正確性確保が重要となる。

第4問(民事訴訟法・司法書士法)

問: 元本140万円および引直し計算後の利息22万円の支払を求める過払金返還請求訴訟について、認定司法書士は簡裁訴訟代理関係業務として代理人となることができる。

答:

解説: 司法書士法3条1項6号・8号は、認定司法書士が訴訟物の価額が140万円以下の事件について簡裁訴訟代理関係業務を行えると定めている。本問のポイントは、「元本140万円+利息22万円=162万円」と単純合算してしまうと140万円を超えるように見えるが、訴訟物の価額の算定上はそうではない、という点にある。

民事訴訟法9条2項は、「果実、損害賠償、違約金又は費用の請求が訴訟の附帯の目的であるときは、その価額は、訴訟の目的の価額に算入しない」と定める。利息請求は、元本債権に附帯する請求として扱われ、訴額には算入されない。

したがって本問では、訴訟物の価額は元本140万円のみで判断され、140万円「以下」(司法書士法3条1項6号イ)に含まれるため、認定司法書士は訴訟代理人となることができる。

なお、訴訟提起後に請求の趣旨を拡張して元本部分が140万円を超えた場合(たとえば140万円→150万円に拡張した場合)には、その時点で訴訟物の価額が代理権の範囲を超えるため、認定司法書士はその後の訴訟行為を代理できなくなる点にも注意が必要である。

また、ここで扱うのは「附帯請求」の話であり、本問のような利息以外でも、損害賠償・違約金・費用などが元本債権に附帯する場合は同様に訴額に算入されない点を体系的に理解しておきたい。

第5問(供託法)

問: 同一の指名債権について複数の債権譲渡通知が同時に債務者に到達した場合、債務者は民法494条2項の「債権者不確知」を原因として弁済供託をすることができる。ただし、弁済者である債務者に過失があるときはこの限りでない。

答:

解説: 民法494条2項は、「弁済者は、債権者を確知することができないときは、その債権の目的物を供託することができる。ただし、弁済者に過失があるときは、この限りでない」と定める(旧民法494条後段は改正により条文位置が整理された)。

同一指名債権について確定日付ある複数の債権譲渡通知が同時に到達した場合、各譲受人間の優先関係を確定できないため、債務者は「債権者不確知」を理由とする弁済供託をすることができると解されている(最判昭和55年1月11日民集34巻1号42頁参照)。最判昭和35年4月21日民集14巻6号930頁は、弁済供託一般の供託原因について整理した先行判例として位置づけられる。

ここで「過失」の典型例とされるのは、

  • 真の債権者が誰かを容易に調査できたのに調査を怠った場合
  • 譲渡通知の真正性に疑義があるにもかかわらず確認を怠った場合

などである。同時到達のケースでは、性質上、債務者が確知できないこと自体に通常過失があるとは評価されない。

なお、債権者不確知を原因とする供託は、弁済者にとっては債務免責を得る効果をもたらすが、被供託者が複数となる以上、供託金の還付請求権をめぐる紛争(供託受領資格者の確定訴訟等)が後続することが多い。実務上は、供託原因の特定と被供託者の表示を正確にすることが重要であり、誤った表示で供託を受け付けてもらえないケースも見られる。

債権者不確知供託の典型場面には、本問のような同時到達のほか、相続人が複数いて遺産分割未了で誰が債権者か特定できない場合、債権譲渡の効力に争いがある場合などがある。

出題分野の振り分け

科目 中心論点 主な根拠条文・判例
第1問 民法 賃借権の無断譲渡・転貸と信頼関係破壊の法理 民法612条、最判昭28.9.25
第2問 不動産登記法 相続人申告登記後の遺産分割と所有権移転登記申請義務 不動産登記法76条の3第4項
第3問 会社法・商業登記法 株主総会決議を要する登記と株主リストの添付 商業登記規則61条2項・3項
第4問 民事訴訟法・司法書士法 附帯請求の訴額算入と認定司法書士の代理権範囲 司法書士法3条1項6号、民訴9条2項
第5問 供託法 同時到達と債権者不確知供託 民法494条2項、最判昭55.1.11(同時到達)、最判昭35.4.21(弁済供託一般)