『全財産を妻に』の遺言と二次相続──次の相続で誰が相続人になるか

この記事の要点 「全財産を妻に」という遺言は有効ですが、その財産は妻が亡くなったときの相続(二次相続)で、今度は妻の相続人へ引き継がれます 夫婦に子がいない場合、二次相続の相続人は妻の親、または妻の兄弟姉妹・甥姪になり、もともと夫の側にあった不動産がその系統へ移っていくことがあります 相続人の顔ぶれが変われば、遺産分割協議の相手も変わります。名義を放置すると数次相続になり、協議の相手はさらに増えます 相続登記は、自己のために相続の開始があったことを知り、かつ所有権を取得したことを知った日から3年以内に申請する義務があります(不動産登記法76条の2第1項) 二次相続まで見据えた選択肢には、予備的遺言、配偶者以外への配分、遺言の書き直しなどがあります。どれを選ぶかは家庭の事情によるため、お近くの司法書士にご相談ください 「財産は全部、妻に渡したい」。遺言のご相談で最もよく聞かれる希望のひとつです。 ...

2026年8月7日 · ひぐらしさとし

空き家を取り壊すと土地の固定資産税が上がるのはなぜ?──住宅用地の特例のしくみ

この記事の要点 建物が建っている土地は「住宅用地の特例」によって固定資産税の課税標準(税率をかける前の土台になる金額)が下げられている。建物を取り壊すとこの特例から外れるため、土地の固定資産税が上がることがある 軽減の割合は、200平方メートル以下の部分が価格の6分の1、それを超える部分が3分の1(地方税法349条の3の2第1項・第2項)。都市計画税にも同様の特例があるが割合は3分の1・3分の2で異なる(同法702条の3) 「更地にすると6倍になる」という言い方は正確とはいえない。負担調整措置があり、評価額も取扱いも土地ごと・市町村ごとに違うため、実際の金額はその不動産のある市町村の窓口で確かめる必要がある 結論から書きます。建物を取り壊すと土地の固定資産税が上がることがあるのは、「住宅用地の特例」という税負担を軽くする仕組みが、その土地が住宅の敷地として使われていることを前提にしているからです。建物がなくなれば前提が失われ、原則として特例の適用から外れます。 ...

2026年8月6日 · ひぐらしさとし

予備的遺言とは──「先に相手が亡くなったら」に備える条項

この記事の要点 予備的遺言(補充遺言)とは、「もし○○が私より先に亡くなっていたときは、△△に相続させる」というように、次の受け取り手をあらかじめ書いておく条項のこと 遺贈は、受け取る人が遺言者より先に亡くなると効力を生じない(民法994条1項)。その財産は原則として相続人に帰属する(民法995条) 「相続させる」と書いた場合も、その相続人が先に亡くなったときは、原則としてその子(代襲者)が代わりに受け取ることにはならない(最高裁平成23年2月22日第三小法廷判決) 予備的な条項がないと、その部分だけ遺言の効力がなくなり、結局その財産について遺産分割の話し合いが必要になる 予備的遺言は遺言書の作り直しではなく、最初から一文を足しておくだけで備えられる。作成を考えるときはお近くの司法書士にご相談ください 遺言で財産を渡すと決めた相手が、自分より先に亡くなることがあります。このとき、その部分の遺言は原則として効力を生じません。そして日本の民法には、「その人が先に亡くなっていたら、遺言者が次に望んだであろう人へ自動的に」という補充のルールは用意されていません。だからこそ、遺言のなかにあらかじめ「そのときは誰に渡すか」を書いておく必要があります。これが予備的遺言(補充遺言と呼ばれることもあります)です。 ...

2026年8月6日 · ひぐらしさとし

相続放棄の「3か月」に間に合わないときは?──家庭裁判所への期間伸長の申立て

この記事の要点 相続放棄・限定承認を選ぶための3か月の熟慮期間は、家庭裁判所に申し立てれば伸ばせる場合があります(民法915条1項ただし書) 申立てができるのは利害関係人(相続人を含む)と検察官(民法915条1項ただし書)、申立先は被相続人の最後の住所地の家庭裁判所です(家事事件手続法201条1項) 「期間を伸ばす」ための申立ても、もとの3か月が満了する前に済ませておく必要があります 「3か月」は動かせない期限ではない 相続が始まると、相続人は単純承認・限定承認・相続放棄のいずれかを、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に選ばなければならないとされています(民法915条1項本文)。この3か月は「熟慮期間」と呼ばれ、いつから数えるかという起算点の考え方はこちらの記事で整理しています。 ...

2026年8月5日 · ひぐらしさとし

「除籍謄本」とは?──戸籍謄本との違いと、相続登記で必要になる理由

この記事の要点 除籍謄本とは、記載されていた人が全員その戸籍から抜けて閉鎖された戸籍の写し 「今も誰かが在籍している戸籍」の写しである戸籍謄本とは別の書類で、保存の仕方も呼び方も異なる 相続登記では、被相続人の死亡から出生までを切れ目なくたどる必要があり、その過程で除籍謄本や改製原戸籍が必要になる 本文 相続の手続きを進めていると、市区町村の窓口や案内文で「戸籍謄本」だけでなく「除籍謄本」という言葉に出会います。結論から言うと、除籍謄本とは、記載されていた人が全員その戸籍から抜けて、戸籍としての役目を終えたものの写しです。 ...

2026年8月5日 · ひぐらしさとし

遺言の書き直し・撤回のルール──新しい遺言と古い遺言、どちらが有効?

この記事の要点 遺言はいつでも書き直せる。ただし撤回は法律で定められた遺言の方式に従って行う必要がある(民法1022条) 新しい遺言の内容が古い遺言と食い違う部分は、新しい遺言が優先し古い遺言のその部分は撤回されたとみなされる。食い違わない部分は両方とも有効(民法1023条) 遺言書を故意に破棄すれば撤回とみなされるが(民法1024条)、公正証書遺言や保管制度を使った自筆証書遺言は、遺言者が原本を直接破棄できない点に注意が必要 2026年6月に遺言制度を見直す改正法が公布されたが(令和8年法律第45号)、施行日はまだ未確定。撤回の基本ルール(1022条・1023条)に変更はなく、いま書き直すなら現行のルールがそのまま当てはまる 書き直し方や効力に迷ったら、お近くの司法書士へ相談を 一度書いた遺言でも、気が変わったり家族の状況が変わったりすれば、何度でも書き直すことができます。ただし「新しく遺言を書けば、前の遺言は自動的に全部なかったことになる」というのは正確ではありません。実際には、新しい遺言の内容と食い違う(抵触する)部分だけが撤回されたとみなされ、食い違わない部分はそのまま残ります。この記事では、遺言を書き直すときの基本ルール(民法1022条〜1024条)を、撤回の方式・新旧遺言の抵触・遺言書の破棄という3つの場面に分けて整理します。 ...

2026年8月5日 · ひぐらしさとし

遺言書に書けること・書いても効力がないこと──付言事項の使い方

この記事の要点 遺言書の内容は、法律上の効力が認められる「法定遺言事項」と、効力のない「付言事項」に分かれる 遺留分(一定の相続人に法律上保障された最低限の取り分)などの法律のルールは、付言事項でお願いしても変えられない 付言事項に何を書けるか迷ったら、お近くの司法書士にご相談ください 遺言書には、法律上の効力が認められる内容と、認められない内容があります。結論から言うと、財産の配分方法などを定める部分(法定遺言事項)には法的な効力がありますが、「付言事項(ふげんじこう)」と呼ばれる、家族へのメッセージや理由を書く部分には法的な効力はありません。書いたからといって相続人を法的に拘束するものではなく、あくまで気持ちを伝えるための文章です。 ...

2026年8月3日 · ひぐらしさとし

相続の相談で、親の判断能力が気になるとき──家族が迷わず伝えるためにできること

この記事の要点 気になる様子に気づいたときに大切なのは「疑うこと」ではなく、気づいた事実をそのまま家族や相談先と共有すること 症状を決めつけたり診断したりせず、医学的な判断は医師など医療の専門家に委ねる 早めに気づきを共有しておくことが、本人の意思を大切にしながら相続の相談を進める力になる 相続の相談に行こうとしたとき、「最近、親の様子が前と少し違う気がする」と感じても、それを誰にどう伝えればいいか分からず、一人で抱え込んでしまう家族は少なくありません。こうした場面で大切なのは、様子の変化を「疑い」として詮索することではなく、気づいたことをそのまま家族や相談先と共有することです。 ...

2026年8月2日 · ひぐらしさとし

相続税の配偶者の税額軽減とは──「1億6,000万円」の意味と、税額ゼロでも申告が必要な理由

この記事の要点 相続税には「配偶者に対する相続税額の軽減」という制度があり、配偶者が取得した遺産の額が「配偶者の法定相続分相当額」と「1億6,000万円」のいずれか多い金額までであれば、配偶者に相続税はかからない(相続税法19条の2第1項) この軽減の適用を受けるには相続税の申告書(または更正の請求書)を提出することが法律上の要件であり(同条3項)、軽減の結果として納税額がゼロになる場合でも申告書の提出は省略できない 贈与税の「おしどり贈与」(贈与税の配偶者控除)とは、かかる税目も要件も別の制度なので混同しないよう注意が必要 相続税には、亡くなった方の配偶者が遺産を受け取るときに税負担を大きく軽くする「配偶者に対する相続税額の軽減」という制度があります(相続税法19条の2)。よく耳にする「1億6,000万円」という金額の意味を、正しく理解している方は意外と多くありません。 ...

2026年8月2日 · ひぐらしさとし

死亡後の手続きスケジュール全体像──7日・14日・3か月・4か月・10か月で何をすべきか

この記事の要点 死亡後の手続きには、7日・14日・3か月・4か月・10か月と、期限が段階的にやってきます 準確定申告・相続税申告は税理士、年金関係の届出は年金事務所・社会保険労務士が窓口で、相続登記(3年以内・義務化)は司法書士の業務範囲です 「未支給年金」「葬祭費」など請求しないと受け取れないお金は、ここで挙げる期限とは別枠で動いています 何から手をつければよいか迷ったら、まず全体の時系列をつかみ、期限が近いものから順に確認するのが次の一歩です 身内が亡くなると、悲しみに向き合う間もなく、さまざまな届出や手続きに追われることになります。しかも、それぞれに「いつまでに」という期限がついており、その長さはバラバラです。短いものは死亡から7日、長いものは10か月、不動産があればさらに3年という期限まで存在します。 ...

2026年8月2日 · ひぐらしさとし